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「質への逃避、NY金週間ベース5.4%約3年ぶりの大幅上昇」

2023/03/20
Market Strategy Institute Inc.代表
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

「質への逃避、NY金週間ベース5.4%約3年ぶりの大幅上昇」
(2023年3月20日記)

先週末3月17日のNY市場の金価格は大きく反発した。1週間前のシリコンバレーバンク(SVB)、シグニチャーバンクの破綻に対する米金融当局の迅速かつ例外的対応(預金全て保護)に落ち着いたかに見えた市場だが、その後の大手銀クレディ・スイス問題に加え、他の米銀への支援にもかかわらず不安心は拡大。「質への逃避」の流れはむしろ加速し、買いが膨らんだ。銀行システムの流動性(資金)不足に対する投資家の懸念が払拭されない中、引き続き国債に買いが入り、利回りが大きく低下し、連動する形でドルも低下した。NYコメックスの通常取引は前日比50.50ドル高の1973.50ドルで終了した。22年4月18日以来11カ月ぶりの高値水準となる。週間ベース(週足)では116.10ドル高、5.4%の上昇と、値上がり率は20年4月以来の大きさとなった。

17日の金市場は、NY時間外のアジア午後からロンドン、NYの早朝まで1930ドル台半ばで横ばいで推移した。動き始めたのが、NY株式市場の通常取引前のプリマーケット(時間外取引)の時間帯。金融株の下落が目立ったことに反応したものだった。NYコメックスの通常取引開始後から、急伸はないものの一貫して水準を切り上げながら相場は進行。心理的節目と見られた1950ドルは抵抗なくあっさりと突破し、午前10時過ぎに1960ドル台に入ったところで、売り買い交錯状態に。終盤に再び騰勢を強めたのは、大手銀クレディ・スイスを巡る懸念の高まりを映したもので、1973.50ドルで通常取引を終えてなお騰勢は止まなかった。時間外で水準を切り上げ結局時間外取引は1993.70ドルの高値引けとなった。

足元の金融市場は、米中堅銀行の破綻から始まった銀行財務への懸念が、以前から問題を抱え先行きが懸念されていたスイス金融大手クレディ・スイス(CS)へと危機が飛び火する事態に。一部にSVBに似た預金や資産流出の加速やCSを相手方とする新規取引を中止などが一気に広がり、CSの信用基盤の悪化が急速に高まることになった。かつて2008年のリーマンブラザーズがCSに置き換わったような状況となり、俄かに国際金融危機への懸念が強まることになった。2008年から09年にかけての国際金融危機時やさらに2012年に至る欧州債務危機(欧州ソブリンリスクの上昇)時には、中央銀行が救済策の前面に出ることが判明すると、不安心理の沈静化も早かった。むしろ傷んだ経済の修復に大きな時間とコストを要した。

ところが今回、当時の学習効果から矢継ぎ早に打ち出された金融当局の対応策は、効果は見せるものの、結果的に応急措置という感じで、市場センチメントの沈静化に手間取っている。金融当局の登場がすぐに火消しにつながっていない。リーマンショック後の経済の低迷を、長年低金利を前面にした緩和策で対応し、新型コロナ禍に当たってはそこに空前の資金供給を加えた米連邦準備理事会(FRB)はじめ主要中央銀行。結局、株価や住宅など資産価格高騰という、いわばわかりやすいバブル以外に、超低金利環境の中で収益拡大を目指すために取ってきた(たとえばデリバティブを駆使した)金融取引という信用バブルが発生、金融環境激変の中で問題を抱え浮上する形になっているようにみえる。

報じられているように、スイス金融大手UBSがCSを合併することで話がまとまった。買収額が30億スイスフラン(約4260億円)相当となる株式交換で実施するとされる。話がまとまらない場合には、CSは政府管理に置かれ金融危機は一気に広がったとされる。当然ながらUBS側は、合併後に浮上する可能性のある損失の浮上などから、合併を渋ったとされる。そこでスイス政府は90億スイスフランの政府保証を付けたとされる。さらにスイス国立銀行(SNB、中央銀行)は、UBSとCSに1000億スイスフランの流動性支援枠を設定するとされる。先週、SNBがCSに500億スイスフランの支援を発表し、沈静化とみられたが目先の対応策と市場に判断された。抜本的な対応策を整えたと見られるが、市場は、本日の欧米市場の反応を注視している。

※お知らせ 今週3月22日(水) テレビ東京(および系列)の市況番組「モーニング・サテライト(5時45分~7時05分)番組内(6時半から数分間)にて、このところの金市場の動きについて解説いたします。
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